番組制作者の声

テレビ東京
制作局クリエイティブ制作チーム
牧島俊介さん

2024.11.19 tue

― 入社2年目の心細さ

何もできないから恐ろしい。入社して初めて企画演出を務めた『ナキヨメ』の放送を終えてそういう気持ちになった。番組は完成してからできることは少ない。誰かに見つけてもらえるのをただ待つしかない。自分が絶対に面白いと思える番組を作りきったという感覚だけで、どうにもできなさを耐えるしかない。

「就活生にアドバイスを」と言われても、就活をしたのは一度きり。まだ2年目で面接官を務めたこともないから、気が引ける。というわけで、僕の制作職になるまでと入社してからの体験をそのまま詰め込んだだけの文章にしている。これを読んで、テレビ局にはこんな人がいるんだと思ったり、テレビ業界への期待感を高めたり(読む人によってはその逆も…)していただけたらと思っている。

― ある芸人に衝撃を受けて

高校生までの僕は、『ゴッドタン』やネタ番組が好きなちょっとしたお笑い好き。伊集院光さんやおぎやはぎさん、オードリーさん、ダイアンさんなどのラジオ番組にもハマって、深夜バラエティとラジオを寝る間を惜しんで見(聴)続けていた。その頃は、あくまでお笑いは“観るもの”。“作る側”は、自分から遠く離れたところにあって、想像してみたこともなかった。

“作る側”になりたいと思ったのは大学生になってから。行動範囲が広がり、ライブを観に行くようになった。そんなある日、10組程度が集まったライブにたまたま出ていたのが“虹の黄昏”という芸人。彼らのネタを見た瞬間、浮いた。身体中の臓器が上がった。ネタの中の1つ1つの発想が新しいとかではなくて、概念が違う。漫才でもコントでもなくて、いわばアクション。飛ぶし叫ぶし客席にも降りる。あまりにウケすぎてネタが全然進まない。5分のはずの出番が、気づけば10分以上になっていた。

虹の黄昏さんの未知の「強い」笑いを見た時、自分もこれを作りたいと突き動かされた。遠くにあった “作る側”の元へ、いきなり乱雑に投げ飛ばされた。
それから、自分でも何かを作ってみようとお笑いライブを主催してみたりした。そのうちに生まれた考えが、観る人に最も衝撃を与えられるのはテレビなのではないかということ。ライブやYouTubeは基本的には特定のファンとその周辺、つまりある程度知ってくれている人にしか届かない。僕が虹の黄昏さんを知れたのも、元々お笑い好きで他の芸人のライブを見ていたから。でも、何も知らない人にこそ、衝撃は鋭い原型を保ったまま深く届く、それができるのはテレビだと思った。

「強い」笑いと虹の黄昏さんのことを表現したが、「強い」笑いと「弱い(けど強い)」笑いがある気がしていて、僕は”作る側”として「強い」笑いに特に惹かれている。ハリウッド・ザ・コシショウさんとかオダウエダさんとかのことで、なんとなく意味は伝わる気がする。芸人にはいても、今のテレビの作り手にはあまり「強い」笑い族がいないと思っていて、その枠を自分のものにしたいと学生の頃も今も思っている。

持たされた豆苗

― 初企画演出番組『ナキヨメ』

入社してからは企画書をたくさん書いた。1年目の頃は年間80企画ぐらい提出した。同世代より先に番組を通したいという競争心こそなかったが、同世代から自分と同じような発想の仕方の番組が出る前に1本目を作りたいという焦りがあった。あの番組と被らないようにと変に意識したくない、その邪念で自分のフォームを崩してしまいそうという不安があったから。1本目がとにかく大事だった。
そんな中、1年目の終わりに若手社員向けの募集で提出した『ナキヨメ』という企画が通り、2年目の2024年9月30日にOAされた(TVerで11月25日まで配信)。

ネタバレにならない程度に番組内容に触れると、「感受性の豊かな柴田理恵とマユリカ中谷が亡くなった方に想いを寄せて心霊スポットをお清めする」という告知で放送。それならば「ドキュメンタリーテイストの真面目な番組だろう」と思って観始めた視聴者から「不思議な気持ちになった」「観る方のキャパを超えた」という感想がSNSに溢れた超シュールもの。
これは、非常に僭越ながら虹の黄昏さんっぽいネタを遊び半分に考えている時に出た発想を番組企画に整えた、いわば純正「強い」笑い族の番組(と僕は思っている)。だから80企画の中で一番やりたかった。

「ナキヨメ」カラフルな球体のガラスランプ

― 「良いものを作れば誰かが見ていてくれる」

-だから、どんなものも真面目に作りなさい的な社会人の心構えを入社直後に先輩から言われたが、性善説すぎる考えだと思っていた。良いものを作ったからといって評価されるとは限らないし、埋もれゆくのがほとんどではないかと。

しかし、TVerの再生回数が評価指標だったこの番組、初動がかなり低調だった。どうしようもないこと、どうしたかったもないこと。だから、無力のおぞましさが回る。

放送から5日ほど経った頃、番組スタッフから連絡があった。「東野幸治さんがラジオで『ナキヨメ』の話をしてくれている」。SNSでは多少話題になっていたこともあり、ネットサーフィンをしていた東野さんの目に留まったらしい。放送を聞いてみると、番組の隅々まで褒めていただいていた。そして、この番組を見つけたことを「素敵な出会い」と表現してくださった。自分の手から離れた番組が東野さんと出会い、認めていただいた。初めて得た実感だった。

「東野さんに観ていただけました」。あの尊敬する先輩に深夜の不急連絡。すると、「ちゃんと作れば誰かは見ているから一個一個真面目にやるしかないですよ」とまた返ってきた。

ちょっとずつ見つけられ始めた『ナキヨメ』は、今はトライアル枠の中で一番再生数が多いと聞いている。

― 最後に

改めてではあるが、こういう風にテレビの制作を志望したり、テレビの人ってこんな風なことを思うんだなとイメージを膨らませていただけたりしたら幸いである。

終わりに少々強引にアドバイスらしいことを言うと、「真面目に頑張れば誰かが見ていてくれる」、就活もそういうものであるはずだと思う。

プロフィール

テレビ東京制作局クリエイティブ制作チーム所属
法学部卒業後、2023年にテレビ東京に入社。
2年目で社内募集で企画が採用された「ナキヨメ」が2024年10月に放送。
「ありえへん∞世界」「何を隠そう…ソレが!」などを担当。