番組制作者の声
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日本テレビ放送網
スポーツ局主任
山下 剛司さん
[ 高校サッカープロデューサー業務 ]
― テレビからもらった「感動」 伝える側で「届けたい」
テレビ局を志すきっかけとなったのは、1998年の長野オリンピック。高校1年だった私にとって初めての自国開催のオリンピックで、毎日興奮しながら中継番組を見ていました。
中でも、スピードスケート清水宏保さんの金メダルが印象に残っていて、あるテレビ番組で金メダルの裏にあった知られざるストーリー、五輪に至るまで苦悩し続けた日々のドキュメンタリーを見たことで、清水さんにドップリ感情移入して、レースがさらに感動的なものに見えました。このときやんわりと、番組を作る側、伝える側に興味を持ち始め、「スポーツを伝えたい」「感動を届けたい」という思いが芽生えました。
実は、長野大会のスピードスケートの国際映像制作を担当していたのが日本テレビで、当時、制作に関わっていた先輩たちと今一緒に仕事していることに不思議な縁を感じています。
― 緊張のディレクターデビュー戦
学生時代はサッカーをやっていて、国立競技場で観戦した「第75回全国高校サッカー選手権大会」の決勝「桐光学園×市立船橋」でのプレーに魅了されて以来、中村俊輔選手の大ファンだったのですが、2013年、サッカー中継のディレクターデビュー戦となったのが、当時俊輔選手が司令塔を務めていた横浜F・マリノスのJリーグの試合でした。
ただでさえ緊張するデビュー戦が、憧れ続けた俊輔選手の試合、ということもあり、手に汗を大量にかきながら息も絶え絶えディレクター卓に座っていたのですが、試合開始早々の前半4分、俊輔選手がドリブルから左足アウトサイドで見事にゴールを決めてしまったのです。
日本テレビでは、ディレクター自らが中継車でカメラのボタンを押して映像をスイッチしていく「ディレクタースイッチ制」を採用しているのですが、ゴールの瞬間、とにかく無我夢中でカメラをスイッチしていたように記憶しています。ただ、焦る中でも、俊輔選手の渾身のガッツポーズを近くのカメラで正面から「バチッと」押さえることが出来ました。
各カメラのモニターを見ながらスイッチします
― 「憧れ」が大きな武器になる
中継ディレクターは、チームの特色、選手の武器や魅力、クセなど細部に至るまで、準備段階で様々な要素を研究し、試合で起きることを想像、イメージ作りをして中継に臨みます。当時はまだ経験も浅く、中継に臨むにあたり十分な準備が出来ていなかったと思います。
それでも「たまたま」うまく撮ることが出来たのは、おそらく、学生の頃から俊輔選手のプレーを見続けていたことで、ゴールを決めた後、どこに走っていって、どのタイミングにガッツポーズをするのか、自然と頭に入っていた、感じていたんだと思います。憧れの俊輔選手のゴール、渾身のガッツポーズをしっかり撮ることが出来て嬉しかったと同時に、「準備」「研究」「想像」の大切さや、「憧れ」が大きな武器になることを実感しました。
2022年、私が担当した「第101回全国高校サッカー選手権大会」のメインキャラクター「応援リーダー」に、俊輔選手を起用させて頂きました。それほど体格に恵まれなくても、絶え間ない努力で、日本代表や欧州で人々を魅了し続けた俊輔選手こそ適任、というのが最大の理由ですが、一緒にお仕事をしたかった、というのも事実です(笑)。憧れの選手のドキュメンタリーを制作したり、一緒に番組を作り上げたりすることも、醍醐味のひとつだと思います。
世界各国でサッカーの取材を経験してきました
― 「わかりやすさ」の先にドラマがある
日本テレビスポーツに代々伝わる中継の心得として、「野球中継5箇条」というものがあります。その第1条に「ボールへの集中」という項目があるのですが、ルールを知らない方々も楽しめるよう、ボールプレーに集中して、試合をわかりやすく伝えよう、という心得です。野球中継をはじめ、日本テレビのどの競技の中継でも、最も大事にしている根本の精神だと感じています。
今夏行われたパリオリンピックでも、新競技のブレイキンをはじめ、中継経験が少ない競技も多かったので、各競技で「わかりやすく伝える」ための施策を練る準備に時間をかけました。日本テレビでは、安楽宙斗選手が銀メダルを獲得したスポーツクライミングの中継を担当しましたが、AIを使ってスタジオに実物大のウォールを3DCGコンテンツで出現させる、という新技術のチャレンジに取り組みました。
我々にAIや3Dの知識、知見はありませんでしたが、CG技術スタッフと打合せを重ね、現地スタッフが会場で撮影した動画や画像を駆使して、スポーツ、技術スタッフがワンチームとなって、迫力あるウォールを東京のスタジオに作り上げることが出来ました。素手で登っていく選手のスゴさ、競技の難しさを表現することができて、見ている方々によりドキドキ感、緊張感が生まれて、安楽選手の銀メダルがより感動的なものに見えていたらいいな、と思っています。
競技や試合が伝わってこそ感動が生まれる、その先に伝説やドラマが生まれる、と胸に刻んで、中継に臨んでいます。
スタジオに作ったスポーツクライミングの3DCGコンテンツ
― メディアを目指す皆さんへ
私たちスポーツ中継のスタッフは、「いかにわかりやすく伝えるか」を日々考えて、準備段階でアウトプットを想像して放送に臨んでいますが、メディアを目指す皆さんには「考える」「想像する」クセを磨いて頂きたいなと思います。今、手元で情報は何でも得られて、インプットしやすい世の中ですが、大事なのは、インプットした情報を生かして、考え抜いて、先を想像して、いかにアウトプットに繋げるか、だと感じています。
放送は野球やサッカーと同じ「チームスポーツ」なので、周りに対して自分の「考え」をしっかりと言葉に表現できることが大事ですし、テレビはエンターテインメントなので、私たちも思いつかないようなアイデア、素敵な「想像」が出来る方々と一緒に仕事が出来るといいなと思っています。
プロフィール
1981年生まれ 神奈川県川崎市出身 経済学部卒業
2004年 日本テレビ放送網入社。営業局スポット営業部に配属。
2011年 スポーツ局に異動。スポーツニュース班で「news zero」「Going!」を担当し、その後、中継班で野球中継、サッカー中継、ラグビー中継など担当。
2018年 FIFAワールドカップロシア大会 チーフディレクター
2021年 東京オリンピック チーフディレクター
2023年 ラグビーワールドカップフランス大会 総合プロデューサー
2024年 パリオリンピック 総合プロデューサー