番組制作者の声

テレビ静岡
報道制作局報道部
福島流星さん

2025.1.28 tue

― ジャーナリストへの憧れ

小学生の頃に読んだ“戦場ジャーナリスト”にまつわる本がキッカケでジャーナリスト・記者という仕事に興味を持ち始めました。戦争とは無縁の地に暮らす小学生に世界各地で起きている現実を届ける仕事に魅力を感じたのだと思います。当時は漠然とした憧れでしたが、大学生のときアメリカに留学し『タトゥー』をテーマとした論文を作りました。タトゥーを入れている友人にインタビューをしたり、店舗をいくつかまわって従業員にインタビューするなど、興味があることについて実際に聞いて調べて形にすることの楽しさ・奥深さを学びました。とにかくマスコミ業界で仕事をしたいと考え、就活で受けた企業はすべてテレビ局もしくは新聞社でした。結果的には縁あって地元のテレビ局・テレビ静岡に入社しました。社の雰囲気はもちろんですが、ローカル局ながら海外で働くチャンスがあったことも入社の決め手でした。

― 番組を通じて社会を変えたい

入社してから途中2年ほど報道部を離れた時期もありましたが、およそ6年の記者人生でドキュメンタリー番組の制作に3回携わりました。

①不漁が続いた静岡県の名産・サクラエビ
②違法な盛土が巻き起こした熱海土石流災害
③2024年再審無罪となった袴田巖さん


この3本です。若いうちから1時間の番組作りにたびたび携わることができたのは地方局ならではだと思います。2024年制作・放送した袴田巖さんのドキュメンタリーでは「再審法の不備」にスポットをあてた番組を作り、光栄なことにギャラクシー賞・7月度月間賞を頂くことができました。正直、法律と聞いて「難しそう」と感じる人は少なくないと思います。私自身、法律に興味があるわけでも法学部出身でもありません。ただ75年もの間、一度も法改正が行われていないという事実。一度死刑判決が確定した男性が有罪か無罪か、結論に至るまでに58年もかかってしまったという事実。その原因が仮に法律にあるとしたら...法律の在り方を見直すべきではないかと感じ取材を始めました。この番組を見た人たちが再審法に少しでも関心を寄せてくれたら、この番組を通じて世論が動き、国が動き、法律が変わり、今えん罪被害に苦しんでいる人が一日でも早く救われる社会になってくれたら。そんな思いを込めて番組作りができる、これもドキュメンタリーの醍醐味だと思います。

① 記者3年目で初のドキュメンタリー制作に挑戦。サクラエビ漁師に密着しました。
② 2021年8月に起きた熱海土石流で母親を失った男性に密着。
③ 2024年制作・放送した記者人生3本目のドキュメンタリー。
  法律の不備にスポットをあてました。
④ 2024年9月26日・袴田巖さんの再審判決公判で記者解説を担当(父を見守る娘)

― Q:記者って忙しいですか? A:はい、忙しいです

よく知人から「記者って忙しいよね?」と聞かれます。ほかの職種で働いた経験がないので比較することはできませんが、確かに記者は忙しい職種の一つではないでしょうか。働き方改革が求められる昨今、自分だけでなく後輩記者たちが働きすぎないよう注意を払っています。しかし大きな事件や災害が起きてしまえば連日朝から晩まで働くことになります。時に被害者や被災者、遺族にマイクを向けることもあります。決して『楽しい』取材ばかりではありません。ただ…仮にあなたの街で大きな地震があったとします。避難所は?給水所は?支援物資はどこで受け取る?罹災証明書の発行はいつどこで?情報を入手する手段は様々ですがテレビもその一つです。テレビをつけたとき「記者の働き方改革のためニュースを放送しません」これで納得してもらえるでしょうか?視聴者の命と明日の暮らしを守ることができるでしょうか?少し大げさかもしれませんが報道機関としての責任を持ち、働くときは働かないといけない、そう思って日々仕事と向き合っています。だからこそ大切なのは休めるときにきっちり休むこと。そしてオン・オフの切り替えです。3年前には第一子となる娘が生まれました。以来、むやみやたらに会社に残らず、なるべく早く帰って日々育児に奔走しています。

― メディアを目指す皆さんへ

皆さんの記憶に残る『ニュース』ってどんなものですか?いくつか思い出してみてください。その大半はテレビの映像として頭の中に残っているものではないでしょうか?それだけ映像には力があるということです。そして記者とは自分が「聞きたい」と思えば名刺ひとつで色々な人に直接会って話を聞くことができる仕事です。それでいて全く同じニュースを放送することがないように私たち記者にとっても一日たりとも『同じ日』はありません。毎日が新鮮な刺激であふれています。いま世の中で起きている事実を地域で暮らす子どもたちに届けたい、そのニュースを見た子どもたちの明日が少しでもより良い一日になるように、私たち記者は日々取材を続けています。机の前でジッとしているのが苦手なあなた…お待ちしています!

プロフィール

1994年静岡県藤枝市生まれ。2017年テレビ静岡入社。現在は社会部(県警・司法担当)キャップ。
『母と妻と娘と―あなたが愛した伊豆山―』で第26回日本放送作家協会・中部テレビ大賞優秀賞。
『58年 その先に―袴田事件と再審法-』でギャラクシー賞7月度月間賞/第62回上期テレビ部門奨励賞。