人気番組「ten.」のytv高岡さんと
「ミント!」のMBS西さんが語る
「テレビ・ラジオの魅力」
2019.11.9 sat
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2020.02.19 wed

読売テレビ放送(ytv)・西田二郎さん(以下、西田)
こんにちは。本日モデレートします西田二郎と申します。読売テレビでダウンタウンDXを長年やってまいりました。

エフエム大阪(FM OH!)・中西貴晃さん(以下、中西)
こんにちは。エフエム大阪の中西です。よろしくお願いします。

西田
今日は、民放の未来を担う皆さんがたくさん集まるということで、大阪で同じ時間帯のニュース番組で競い合っているお二人に特別にお越しいただきました。このお二人が同じステージに立つなんて、普段こんなことないですよね。
それではお2人を紹介します。読売テレビ報道局解説副委員長で「ten.」のニュース解説でおなじみ高岡達之さんと、毎日放送チーフ・アナウンサーで「ミント!」のニュースキャスター西靖さんです。

初対面のお二人と「ジャガイモ」

毎日放送(MBS)・西 靖さん(以下、西)
高岡さん、今日は宜しくお願い致します。初めてでしょうかね?

読売テレビ放送(ytv)・高岡達之さん(以下、高岡)
初めてなんですけどね、我々の仕事の常で、僕は西さんを画面でいっつも見ているし、西さんは時々僕を見てくれてますよね。

西
4チャンネルの毎日放送の西と申します。よろしくお願いします。好感度上げとかな(笑)。

高岡
テレビでセンターを張ってキャスターをやられている方と我々のように外を出歩くのが仕事というのは、両方ともプロフェッショナルです。
それぞれ今のテレビの世界では非常に面白い仕事をしていると思うので、同じような仕事をしているように見えて、違うんだということを是非持ち帰ってもらいたいです。

西
高岡さん入社何年目ですか?

高岡
僕は、いやもうね〜、だいたい50歳過ぎるともう年齢が分からないようにする癖がついてしまって・・・、ザクッと30年です。

西
私が今26年目ですよ

高岡
もうそんなに。見えないわ〜。

西
どこ見て言うてるんですか(笑)

高岡
全体を見て言うてます。

西
高岡さんは読売テレビというテレビ局の社員です。で、私は毎日放送の社員で、ウチにはテレビとラジオ両方あります。なんで高岡さんはテレビ局の読売テレビに入ったんですか?

高岡
短く言うと、僕は西さんの毎日放送でアルバイトを5年やってたんです。ラジオをやりたかったんです。だけど西さんの会社で入れなくて10チャンネルの読売テレビに拾ってもらいました。

西
今日初めて聞いたんですけど、ウチの毎日放送のラジオでアルバイトを5年というのは学生時代から5年ということですか?

高岡
学生時代から5年で。僕は大学を卒業じゃなくて毎日放送卒業なんです。本当にほとんどの青春を毎日放送の社屋の中で過ごしました。

西
ラジオのスタッフとして?

高岡
そうです。それがすごく楽しかったです。

西
どう楽しかったんですか?

高岡
もうこの業界が入って30年報道やってますけど、当時はさんまさんと谷村新司さんと5年間ADとしてお仕事させていただいたんですが、みんな若かった。タレントさんも若かったし、その時のディレクターは今、毎日放送の役員になられているんだけど、みんな若くてやりたい放題。楽しくて、手作り感いっぱいで、だからそれをやりたいなと思ってテレビ局に入りました。

西
そのまま毎日放送に行きたいなということで毎日放送の入社試験を受けられたらしいんですが、面接で喧嘩をして・・・

高岡
そうです。

西
僕も26年前に入社試験を受けましたけど、面接に喧嘩をせなあかんような要素って普通ないですよ。

高岡
誤解がないように言っておきますが、みなさんから喧嘩を売ったら落ちますよ。それはダメ。ただ、僕は学生さんと話すときにいつも言うんですが、みなさん“自分の値打ち”を高く売ったほうがいいです。

西
どういうことですか?

高岡
面接の会場行って、そこの会社が喜ぶようなことをいう人。その会社の人の無理難題に一生懸命応えようとする人。やめたほうがいいです。そんなことでみなさんを測るような会社なんてろくな会社にならないです。
どれだけ自分を大事にして、もちろんプロとしてのスキルがないのは当たり前なんだけど、どうして私を取らないんですかぐらいの気持ちで来てくれる方がいい。西さんもね、面接やると思うんですが、採る側からしたらそういう誇りとプライドを持ってる人のほうが絶対歓迎です。

西田
西さんもそういう感じですか?

西
僕はねえ〜あの何でしょうね、自分を高く売ると言うか、多分言ってることは同じだと思うんですけど、例えば今日ここに来てるって事は、放送とか取材をするとか、あるいはそのタレントさんと一緒に仕事をするとか、何かしら物事を世に情報って形で送り出すことに興味がある皆さんだと思うんです。高岡さんと言い方はちょっと違うんですけど、「私はこんな人です」っていうことを皆さん面接で仰られると思うんですけど、すごく最近ステレオタイプにパッケージにされる人が多いんですよ。
「初めまして何々大学の西靖と申します。私を一言で表現するとするならば、それは中身がぎゅーっと詰まったジャガイモです。なぜジャガイモかというと普段は目につかないところで出来るだけ実力を蓄えて、いつかみなさんの口に入って、その才能を輝かせたい」
こういうのうんざりするんです。

高岡
うんざりするね。

西
こんなんいてますねん。

西田
昔より多くなっているんですかね。

西
自分で勝手に自分を規定してパッケージにしてキャッチにして、って言うのはすごく自分をPRしていると思ってるのかなと思うんだけど、むしろ自分の可能性をキュッと閉じ込めてしまってる。
面接の中でどういうのが一番いいのかというと、自分でも気付いてないような自分の一面とか才能とか、「俺こんな喋り方できるんや」とか、そんなものを見つけてもらうっていうのは最高の面接やと思います。

高岡
そうです。だから面接やりながら変わっていくもんね。

西田
そういう可能性を売りに行っているということですよね?
自分ではわからないけど、見てもらって「この子にはこういうのが埋まっているんちゃうか」と可能性を見つけてもらう。最初から自分で出していたら、可能性も何もないですよね?

高岡
西さんが言うステレオタイプ。すごく相手側に対して迎合してるとらえる人も多いですよ。特に我々のようなものづくりする仕事はそうでなくていいと思います。非常識をやってくださいというのは説明が難しいんですが、常識を踏まえた上で、人ってそれぞれの個性があると思います。西さんが例えで「じゃがいも」言ってくれたけど、じゃがいもも人によって全部違う。カレーに入れるじゃがいもだと思う人もいれば、煮っころがしだと思う人もいれば、植物を研究してる人からすると食中毒の原因。だから自分が見たらそうなんだという見方を言ってくれて、試験をする側が「ほお〜」と言ってくれるのが、この業界の面接で一番大事なことだと思います。

高岡さんの顔を映し続ける「ten.」

西
高岡さんが夕方にニュース解説で出演されている「ten.」という番組に我々はなかなか勝てなくてですね。本当に七転八倒してるんです。そちらの西田さんといえば読売テレビの敏腕プロデューサーですが、先ほど打合せで西田さんが面白いことを言いまして、読売テレビのカメラは高岡さんが喋ってる姿を延々と映すんだと。
普通は、僕が例えばニュースのあと、そのニュースについて「このニュースの構造ですけど、こうこうこうで、実はこういう関係性があって」という話をすると、インサートって言ってなんとなく空撮の絵とかに変わります。喋ってる時に間が持たない、西の顔では持たないと言うので、そのニュースのダイジェストみたいな映像が流れ始めるわけですよ。首里城の火災のニュースで「この火災の原因ですけども配電盤の中にショートの跡が見つかりました」と僕が喋り出したら、やっぱり僕の顔は…ちっちゃいワイプって言うんですけど小窓に入って、画面ではより情報が多いはずだといって首里城の火災後の映像が流れるわけですよ。
ところが読売テレビさんは高岡さんが喋ってる時はほとんどそれしない。で、高岡さんが喋ってる姿を延々と映す。今日は僕このヒントを頂いて帰ろうと思ってるんですよ。

西田
延々ですよ。高岡さんは「ミヤネ屋」も出られてますけど、あれはどういうことですか?「俺を撮ってくれ」って言ってるんですか?

高岡
そんなことを言うわけないでしょ(笑)。
今、西さんが説明してくれたことをもう少し解説すると、皆さんは家でテレビをどういう思いで見ますかってことです。自分自身に聞いてみて下さい。皆さんはどんなテレビなら見ますか?「ラグビーは見ます」とか、あるいは「オリンピックは好きです」とか、いろんな見方があると思うんですけど、企業秘密を言えば、テレビは「へぇ〜」ていうのがなかったら…特にテレビのニュースは見ないです。なんでかと言うと、一般的なことは携帯で調べられるでしょ。僕の顔を一生懸命撮るっていうのは、ヨソとは違う西さんとことも違う「へぇ〜」をやってくれるだろうと思ってるからです。
火事も色んな切り口があります。消防隊がどう消したかという話もあれば、電気配線が原因って東京のニュースは一言だけいう。じゃあ電気配線ってそもそもなんなん?電気配線は家にあるんです、それは首里城と一緒なんです、それが火を吹くのはいつなんですか、そういうのが「へぇ~」につながる。多分うちのお客さんは、こいつはヨソと違う何を言ってくれるんだろうという期待感があると思うから、読売テレビのスタッフは僕を撮るんだと思います。
西さんを少しフォローしとくと、西さんはセンターを預かっている人なんです。アナウンサーで真ん中を預かっているメインキャスターです。これは非常に難しい。西さんはいろんな思いを胸の中に毎日畳んで帰っておられる。もっと僕みたい言いたいはず。だけどセンターはコメンテーターにも振り、ニュース素材の中身を説明します。でも西さんも僕に言わせれば、どこの局とは言わないが東京キー局の何の役にも立たないテレビなんかに比べれば、よっぽど西靖さんならではの一言を言うなって人です。

西田
これは東京と違うところですか?

高岡
東京の会社の人も多くいるから、あんまり言うと差し障りあるけど。

西田
会場のみんなはだいたい関西なんだよね?
関西の局にはオリジナリティーあるということですよね?報道の現場といっても。

西
報道の現場ももちろんそうですけど、アナウンサーということに関して、もちろん関西以外の局を受けられる方もいるかもしれない中で申し上げると、やっぱり東京ってなんだかんだで人も多いし、枠も多いわけですよ。例えばラジオで言うと、関西には基本的に芸人さんとアナウンサーと一握りの方しかいない。ところが東京に行くと、いわゆる放送文化人という高田文夫さんだったりとか亡くなった永六輔さんだったりとか、もういろんな人いるわけ、東京の放送業界には。ところが関西は幸か不幸かマーケットとしては十分に広いんだけれども、人材としては芸人さんか、社員なんだけどアナウンサー。こんなアナウンサーにとって面白いフィールドはないんですよ。

西田
アナウンサーさんが画面の中でメッセージを伝えたりする領域が多いんですよね。

西
今はニュース「ミント!」というニュース番組やってますが、その前は「ちちんぷいぷい」をやっていて、「ちちんぷいぷい」は1日4時間ですよ。1日4時間が5日間、月曜日から金曜日まで。1日4時間、月曜日から金曜日まで出てるアナウンサーを東京で探してみてください。誰かいますか?という話なんです。
ラジオでもそうです。朝、浜村淳さんの番組の後は、松井愛さんというMBSアナウンサー、その後は近藤光史さんという元MBSのアナウンサーがやってます。そして夕方になったら上泉雄一というMBSアナウンサーが2時間3時間4時間という枠をアナウンサーが自分の裁量で好き勝手喋れる。これはないですよね。

西田
まあ視聴率というところで少しだけ説明をすると、関西というのは1パーセントの視聴率で、だいたい20万人見られるといわれています。
ということは5パーセントの視聴率があれば、それだけで100万人なんですよ。平均5パーセントの視聴率が2時間あったら、2時間100万人が見ていると言う状況を思ったより少ない人達で運営している…こんなメディアがどこにあると言う話なんですよね。

西
ネットメディアは、それこそスマホひとつあれば自分で発信ができてしまう非常にローバジェットなメディアだと思います。でも、少なくとも社会に対して責任を持ちながら、ある程度の影響を与えながら、なんだったら雑誌が書いたこと、テレビ・ラジオが伝えたことによって政治が動いたりもするという中で、こんなに自分がやれる範囲が大きく取れるというのは、めちゃめちゃ楽しいですよ。

ライブ!ライブ!ライブ!

西田
「ミント」は「ちちんぷいぷい」で培われてきた歴史に、また新たな視聴者層、もっといろんな方にもメッセージが伝わったらなということで展開されているんですよね?

西
そうですね。「ちちんぷいぷい」は、この春から前半4時間と後半2時間になって後半は「ミント」という番組になりました。「ちちんぷいぷい」は、ありがたいことに20年続いた番組です。本当にありがたいんですけど、番組と一緒にご覧になってる方も20年歳をとりました。当時愛して頂いた若い主婦の方たちが、ベテラン奥さんになってきたという状況で。もっと若いみなさんに訴求する、見てもらう番組もやらなければということで始まりました。
そういう中で高岡さんの顔が延々映ることをなぜ言ったかというと、やっぱりライブだってことだと思うんですね。高岡さんがガーッと「配電盤は皆さんの家にもあるんですよ」って言う時に、皆さんの家にもあるんですよと高岡さんが話してる顔と、情報をぎゅっと詰めた方がいいからって編集した首里城の映像の中の小さな小窓で高岡さんがしゃべっているのと、どっちが迫力ある?どっちが訴求力ある?っていうと、高岡さんが喋ってる顔のほうが、情報が皆さんの目から耳から入ってストンと落ちるということを読売テレビさんはわかっているんやろなと。ありきたりな映像で潰してしまって音声情報だけ高岡さんに喋らせておこうではなくて、高岡さんが熱を込めて皆さんの家の配電盤は大丈夫かという話をしていることも含めて、「人は見た目が9割」という本がありましたけれど、喋ってる高岡さんも情報だと。ちょっと気をつけとかないとあかんってことをマジになって言ってることが情報ということを高岡さんも読売テレビさんも分かっている。
毎日放送は?ということを今日は持って帰ろうかなと思ったんですけど、それがぐるっと回って皆さんの就職に関して、先ほどのじゃがいもの話に戻って、あんまりパッケージしない方がいいよとお伝えしたい。
面接がライブだとすると、やっぱり今からじゃがいもって言うんだって思われてしまう、どこの就職面接に行ってもジャガイモの話をすれば大丈夫だっていうパッケージを見てもらうよりも、面接官とのやり取りの中で「お、こいつ何をいうんやろ」、この人が喋ってるっていうのも全部情報やな、ネットで御社の情報を調べましたってことをつらつらと言うんじゃなくて何かやりたことあんねんな、ちょっとメモをとるのも止めてこいつの言ってる顔じっと見てみようか思わせてほしい。
我々がライブにこだわってやってるのはそういうところであり、人間同士なので。パッケージ同士を並べました、こっちのジャガイモよりこっちのジャガイモの方がいいかなとパッケージ同士を比べるという話じゃないと思います。

西田
心に残るというか、気持ちを惹きつけるということ。お二人もそうやって会社に入ったから、会社でもそういう仕事を延々とやっている。高岡さんも上手に喋ろうなんて思ってないですよね?

高岡
お前少しは先輩に気を遣えって(笑)。
みなさんがの入社試験の参考になればと思うのは、僕とか西さんはみんなから見ればしゃべりが出来てると思うかもしれませんが、我々は特異な人間ではありません。もちろん西さんはアナウンサーだから、きちっと原稿を読む訓練は僕と違って受けてます。毎日放送はラジオもあるし、ご本人は謙遜されるけど実は喉もすごくいいわけです。けれども野球選手と一緒で、訓練をし、素振りをし、そんなことは見てるお客さんには黙ってるけど、西さんも一生懸命素振りをしてるし僕もしています。
その中で西さんがライブと言っていました。僕はネットを否定しません。実際ほとんどの速報をヤフーニュースとかでご覧なってるでしょ。だけどどうしてじゃあ日本でネットが出てきた時代に「滅びる」と言われた新聞社が残ってるんですかということです。あなたたちは新聞読まないでしょ?読まない人多いですよね?それなのに残っているよね?それはネットニュースを見ればわかる。読売新聞にこう書いてあったと、産経がこう書いた、abemaTVでこうだったと書いてある。
我々はやはり現場を持ってるんですよ。世界中はいけないけれども、僕もまた12月首里城行きますが、行こうと思ったらそこへ行ってみます。西さんはレギュラー持ってるからなかなか束縛があるけれども、できるだけこの人も外に出ようとしてます。ネットニュースと違って、我々はお互いの顔で署名をしている、責任を取っているわけです。
皆さんがネットニュース見る時、つぶやきコメントを信用するのか、共同通信がこう書いてましたということを信用するのか、自分で聞いてみてください。どこのどなたかがわからないコメントや自分と意見が合うコメントは一生懸命読むけど、本当かどうかは疑うでしょ。だから我々テレビが唯一生き残るとしたら、これからはライブなんです。今もライブなんです。
ところが西さんも僕も危機感を持ってるのは「ありきたりな人が増えた」こと。これから受ける皆さんはできると信じたいが、今の若い社員はライブが下手!できない!だからどんどんテレビが見られなくなっている。
youtubeで素人がライブ実況やってるラグビーを見ますか? やっぱりちゃんと試合の流れ見たかったら、J-sportsでもNHK-BSでもいいけど西さんのようなプロフェッショナルアナウンサーが実況してくれているのを見るでしょ。

西
ウチ、ラグビー1試合もやらなかったんですよね。

高岡
すいません。ウチが視聴率全部いただきました(笑)。 でもね、要はそういうことなんです。だから面接についても西さんがライブという言葉を何度も言われた。ライブなんですよ。だから用意してきたことなんてすぐに覆されるんです。
僕は会社に警戒されて面接担当に最近ならないです。僕が面接をやると、必ずツイッターに「読売テレビに行くと眼光鋭い恐ろしいおっさんが出てきて用意してきたことを一言も聞いてくれない」と書かれるらしいのね。だから僕は最近人事に嫌われて、面接に出ないですが。でもマスコミの人ってみんなそんな質問すると思います。
志望動機がどうのこうのってみんなは言うけど興味はないの。君たちが一番話をしたくない年代のおっさんやおばさんを相手に「ふーん」と言わせないといけない。だからその戦略をみんなは考えなきゃいけない。そのキーワードは西さんが言ったライブです。だから何を聞かれたって自分なりにそれを切り返せる練習もしなきゃダメだし、訓練をしないで面接に来て「落とされた。1分で自分のことが何が分かるねん」と言うのは、それは僕から言わせれば負けた言い訳です。やるだけのことをやって負けるのと、何もせずに試合に臨んでラッキーを望むのは、どこの会社を受けたって一生懸命あなたたちを採ろうとするプロに失礼。
あなたたちがどうやったら西さんに耳を傾けさせられるか、ぼくに耳を傾けさせるか、西田二郎に耳を傾けさせるかというのはお家で練習できるの、実は。お父さんお母さんに20分間、あなたの話をずっとあなたの方を向きながら聞かせてごらん。それができたらマスコミは通ります。

中西
面接も番組も一緒ですよね。

西さん・高岡さんが語るラジオ、そして「メディア」

西田
ラジオなんかもうまさにライブですよね。

中西
そうですね。ラジオは基本的に生放送前提で、ラジオに台本はないんですよね。やりながらいろんなメッセージが来て、変わってくるので本当のライブです。

西田
ラジオはほとんどディレクターとDJの2人ぐらいでやってますよね。

中西
西さんはラジオもテレビも両方経験されてますけど…

西
僕、土曜日にラジオをやっていて、7年ぐらい前ですけどね。全部で4時間半のラジオでした。
進行表っていうのがあるんですね。オープニングで何々があって…これがテレビだったら台本があったりするんです。ところがラジオは4時間半の番組が、A3用紙1枚にオープニング、CM1、CM2、CM3、CM4、CM5、ニュース、終わり。あとは好きにしてっていう感じなんですよ。リクエスト番組ですから、基本的に曲がかかります。曲のリクエストが表で入ってきて、その中から「じゃあこれ行こうか」「この順番でかけたらなんか繋がりええな、この季節感」という感じで選びます。それでコメントも紹介します。それに合わせてこちらもしゃべります、っていうことを自由に紡いで行ける。はじまりに「今日はどんな1日になるかな」っていう想像と、終わってみたら「そんな事喋ったね」って全く違う想像もしない1日が過ごせる。
今、ラジオってどれくらい聞かれているんですかね。

高岡
毎日聞いてますよ。僕の朝は「ありがとう浜村淳」からです。

西
ありがとうございます。日常的にラジオを聴いているって人はどれくらいいてます?

(会場の学生がパラパラと挙手)

西
少ないですね。

高岡
やっぱり仕事柄とかあると思います。仕事をしながら聞くとか多いでしょうし。
我々は特定の層だけ相手にやっているわけではないです。放送法があるのは、赤ちゃんからお年を召した方まで選べないメディアだから。チャンネルを付けたら、スイッチ入れたら、いやが応でも嫌な話も聞かされるから、我々放送局は放送法を守るんです。
新聞は読まなきゃいいでしょ。雑誌は買わなきゃいいでしょ。テレビはそうじゃない。
そういう意味で行くとね、例えば西さんは結婚したのは何年前ですか?

西
5年前。

高岡
5年ね。お子さんは?

西
2人です。

高岡
こういう人たちに一番聞いてもらいたいというスポンサーもいるわけです。お子さんを育ててる人はお子さんのために物を買うよね。そういう世代にあなたたちがもしもなったらすごくそれが分かります。
ラジオを聴くようになるのは車で営業されている方。会場から外へ出たら30分流れてる車を見てください。月曜から金曜、どれだけたくさんの人が営業車で大阪市内、東京都内走っているのか。車のテレビを見ながら走ってたら事故るのでラジオを聴く。ここで手が上がらないから、じゃあもうラジオは古いんだねと思ったら大間違いになります。
先日の千葉での台風被害。災害の時テレビは一番最初に役に立たない。停電なったら映らないし。被災地の人は忙しすぎて見ていない。それでツイッターがいいっていう人はいました。東北の地震の時から僕は思い知った。携帯電話は最初に死ぬ。基地局はつぶれ、「大丈夫」というメールを送りすぎて、みんなバッテリーが上がってしまう。そうするとラジオが生き残るんです。だから、あるメディアを自分が見ないから聞かないから「ない」なんて絶対に思わないください。

西
おそらく私の父親・母親ともに70代ですけど、70代にとってtwitterは自分の息子どうしてるかなって僕のつぶやきをたまにチェックするぐらいで、メディアと思ってない。
今皆さんに見えてる世界と、僕や高岡さんから今見えてる世界と、我々の親世代が見えてる世界って全部違うんですよね。触れるメディアも違うし、情報の入り口も違うし、考えてることも違う。
「ラジオって聞かれなくなったね」って確かに言われるんです。昔と比べたら若者文化の象徴とか、ムーブメントを起こすとかそういう現象はなくなったかもしれないけど、高岡さんの言うように災害時に最後まで生き残るのはどんなメディアなのか、そう考えた時に「あかん、停電や。電池のラジオあったやろ」ということになる。つまり「命をつなぐメディア」ということですよね。
確かにラジオはこれから転換期を迎えると思います。その「命をつなぐ」ということだけでは、今のサイズ感としてのラジオの営業ができるかどうかっていうと、非常に難しい局面に来ているのは確かです。だけど逆に言うとそういう中でどんなラジオの形があるのかっていうのは、可能性が広がってる。

中西
まさに今からこの業界に入ってくる人たちは、新しいラジオを作ることができます。

西田
ラジオ自体はずっとあるわけですよね。若い皆さんが中身をどうしていくかだけですよね。

高岡
それでいうと、日本の政治家がすぐ言うでしょ、欧米がどうのこうのって。今のアメリカはメディアの先進国です。そのアメリカでどれだけたくさんのローカルラジオが生き残ってるか、どれだけたくさんのローカル新聞が愛されてるのか。
メディアの評論家とかITの人は、必ず言うの「テレビはもう終わりですよ」とか「放送はもう廃れていく。ネットの時代だ」とか。僕は全然違うと思う。やっぱりそれぞれ皆さんが選んでくれる道があるわけ。それで生き残っていけると思うし、西さんが先ほど説明してくれたライブなんです。
災害の時に、携帯のバッテリーが上がった後どうやって情報を取るんですかって、例えばラジオについてAMが生き残るのか、FMの方が短い距離だけども届くとか、そういう説明をしてくれるなら、また視聴者はテレビ戻ってきてくれるんです。
だからみなさん新聞社に行ったっていい、出版社行ったっていい。だけどそのメディアが自分のやりたいこととどのぐらい合うんだろうか。まずそれを自分の中で決めた方がいいと思う。

中西
ちなみに、僕がラジオの世界に入った時に先輩に言われたのが、テレビの人たちは視聴者にむけて「みなさん」と呼びかける、ラジオはみなさんではなく「あなた」。これを基本に喋ると言われましたね。

西
高岡さんは、ラジオを作る現場で学生時代ずっとアルバイトしていて放送業界に入ろうと心に決めたとおっしゃいましたけど、僕は中学生の時に深夜ラジオ聞いていて「なんて不思議な世界があるんだ」と思って、いろんな刺激を受けました。そのラジオで何を喋ってたかというと、大したこと喋ってないんですよ。わかりますかね。僕が聞いたのは深夜ラジオなんですが、ちょっとエッチなことを喋っていたりとか、東京の深夜でこんなことが流行っていて、このあいだこんな演劇を見てみた、というようなことを喋っているんです。岡山の田舎の中学2年生には何言ってるかわからない。だけど何を言っているのかわからないけど、すごいワクワクしたんですよね。
つまり中身が理解できることが重要ではなくて、その空気の中に入っていく自分というものを想像した時にすごいワクワクしたわけ。「あ!こんなにまだまだ自分が手を伸ばしても手を伸ばしても底がつかない。向こうに辿りかない世界がこの向こうにあるんだ」と想像させられた時に、「この世界とても素敵!」と思って、僕は「放送局に入りたい。アナウンサーになりたいって人に何かを伝える仕事したい」となってラジオのある局にしようと思いました。読売テレビは書類で落とされたんですけどね、毎日放送に拾ってもらって「ラジオのある局でよかった」って思いました。

「今この業界来てるらしいで」で判断すると後手に回る

西田
今、「テレビ・ラジオは終わってるんちゃうか」と思っている人もいるだろうけど、今日は一個だけサービスをします。今のテレビ局…大阪の局や地方の局がどう思っているか。本当にテレビを変えてやるんだっていう人間に変えてもらいたい。言うてる通りにやりますではなくて、「僕が変えてあげます。私が変えてあげますから」って面接で言うたら「ほんまか?」言うて…

高岡
今の言い方をもう少し補足すれば、不満はみんなあると思います。「テレビこの人つまんないな。この人の言ってることは嫌いだな。こんなワイドショー嫌いだな。」それは思ってくれていい。ただプロになるんだったら、そのつまんないを「あなたならどうするんですか」っていう思いを今のうちに温めてもらいたいです。
そういうのを、身体中から持ってる人を西さんの会社も僕の会社も求めているんです。文句を言うのはテレビの前でどうぞご存分にやってください。それは視聴者の権利。だけど、垣根を越えて我々の方に来るのだったら、自分が面白くしてやる、つまらないものを変えてやるプランを見せて欲しい。それはみんな思っているはずです。

西田
西さんやっぱりそうですよね。毎日放送もそういった人を待ってますよね。

西
みなさんがこれから就職することになるわけですけど、どんな業界を目指すか、どんな仕事をするかっていう時に、「今この業界来てるらしいで」っていうのを判断材料にすると常に後手に回ります。例えば今50、60代の人たちは、「今は金融やでー」って言うて入ったんですよ。バブルで証券会社がいい。銀行がいい。「今やったらすごいボーナス出てるらしいで」と言って。もちろんどんな環境で働けるかがめちゃめちゃ大事ですよ。みなさんだって家庭を持ちたいという人は多いだろうし、どんな人生設計を描くこと考えなきゃいけないから、どんな環境で転職しやすいかしにくいかとか、あるいは福利厚生どうなってるかとか、そういうことはすごい大事ですけども、この業界が来てるからこの業界にいくってことにすると…。
いま金融業界どうなっているのか。僕が就職する時にあった銀行ほとんどないんですよ。潰れるはずがないと言われていた証券会社が潰れてるんですよ。そういうことが往々にして起こります。製鉄が熱いと言われて入ったけれども、自分が働き盛りの40代50代になるときにはその造船の会社が左前になっているということがあり得る。 それで言うと、いまITが熱いから入る、ひとつの基準ではあると思います。だけども、それは後手に回ってるんです。何がやりたいのかということをもう一度、自分に問い直さないといけない。今ここに皆さん集まって頂いてるということは、何かを伝える、何かを作るということに興味があるから来ていただいているんだと思います。であるならば、自分が相手に何かを伝えるその第一歩が就職活動であるわけです。
で、我々はそういう人たちなのか。確かに我々の仕事は、いま成長産業かと言われたらそんなことないかもしれない。だけれどもこれから2回も3回も4回も脱皮をして皆さんの役に立つことができる。「こういうことなら面白いなと思ってもらえる。そういうものを作り続けていく」という気概にあふれた人がいっぱいいますよ。そういう中に「違うんですよ。こういうのが見たいんです」ということを持って、それを伝えたいという人に来てもらいたい。何の話をしているのかよくわからないですけども(笑)。

画が見えるようにする

高岡
いま西さんがちゃんと伝えてっていうところで。西さんも若く見えるけど偉くなってきている。
実はうちの下の息子は皆さんと一緒です。いま就活してます。西さんの言うことは大正解で、皆さんに生き方、自分の足元を見つめてねっていうのは大賛成。だけど、ノウハウも少し知りたい。そのハウトゥー、一つか二つ持って帰りたいよね。他のブースにないサービスをしておくね。
西さんもいつもしていることなんだけど、テレビに顔を晒している人間が「一番響くだろうなこれは」と思って喋ることは、テレビに映らないことなんです。よく「ご覧のように」ってバカみたいなライブをやる人がいるんだけど、心配しなくてもみんなご覧になってるんですよ。そうするとテレビに映らない事って何ですかという話なんです。

(観客席へ行って来場者と握手)

私の手は暖かい?

学生
暖かいです。

高岡
暖かいはテレビに映りますか?映らないでしょ。

(他の来場者と握手)

私の力は強い?

学生
強いです。

高岡
力の強い弱いはテレビに映らないでしょ。
そしてもう一つは西さんのこの画面ね。西さんを一番右のあなたが、「今日お母さん、西さんって言うミントの人に会ったのよ」「どんな人?」これ画が見えなかったらお母さんすぐに晩御飯の支度に戻りますよ。
テレビであろうがカレーであろうが、あるいは鉄工業であろうがITであろうが、絵が見えない説明は、これから試験で嫌というほど遭う年代の人間は全くわからない。だから、お父さんお母さんおじさんおばさんとか普段絶対に喋らない年代の人と「あーそれ分かるわ。あーその映像が見えるわ」っていうの練習してみてください。
カレーライス、食品会社受けるんだったらカレーライスを1日100杯食ってくれ。その100杯の中で「お宅のカレーはこうだから、この商品を食べます」と言ってくれたら食品会社の人は涙を流す。何故か?そのカレーを世界何億の人に食ってもらうために家族を犠牲にして、みんな働いてるから。そこの商品が一番有効な相手との話題です。
西さんの毎日放送を受けようと思うんだったら、「ミント!』を気が狂うほど見てくれ。それで西さんの良いとこ悪いとこ、あるいは僕が注目しているツジケンちゃんという最も僕がライバル視している解説委員がいるけど、ツジケンちゃん(辻憲太郎MBS解説委員)は僕が危機感を覚えるぐらいうまい。でもそのツジケンちゃんを皆さん嫌いかもしれない。映っているものも見ずして、それを変えたい所も言わないで戦いに行ったって負ける。
だから画が見えるようにする。このペットボトルは両手で潰せるか潰せないか。潰せるというのはテレビで映った。だけど本当に握り潰せるかどうかのこの圧力は口で説明しないとできない。

西田
すごいパワーで押し切っていきましたね。みなさんに本当に伝わって欲しいです。なんか残って帰って欲しいですよね西さん?

西
ちょっと今、高岡さんの迫力に圧倒されてしまって…。
仰る通りなんですよ。結局テレビがライブだっていうのも同じことで、その握手した時の温度感とか、力の強さとか、明るいのか暗いのか、どんな匂いがしたのかとか、これからのテレビのキーワードが「ライブ」であれば、そうしたことが我々の意識していかなきゃいけないことです。更に言うと皆さんがいろんな面接をこれから受けるにあたって、我々「完パケ」と言うんですけども、すでに完全パッケージになった自分で行くのではなくて、「今日はどんな会話ができるかな」っていう風なことを思いながら就活に臨んでいくと就活のことが苦じゃなくなる。
それはまったくあの何の準備もせずに行けって言うんじゃないんですよ。「その業界のことを好きだ」と思ったのであれば、とことん突き詰めてどこが好きなのか、どこに私ならこうするなっていうポイントが見つかるのか、そういうことですよ。造船に行くならこんな船が作りたいって幼稚でも言わなければいけない。でもプロでも「あ、それな!」って思わせなければいけない。そのためにはカレー100杯食うのもアリだし、もう穴があくほどテレビを見るのもアリだし…。

西田
アプローチの仕方はいくらでもありますよね?オリジナリティー。

西
我々は放送業界を盛り上げる人材にもっと入って欲しいと思うけど、そうじゃない世界に向かうとしても、求められる資質というのはそんなに違わないと思っています。

西田
中西さんはどうですか?ラジオのほうもここのところ頑張ってきているんじゃないですか?

中西
いろいろ新しいことを模索しています、僕らも。いろいろなことにチャレンジするということが大切なので、就職活動もチャレンジだと思うんですよね。あまり絞らずに、いろんなことに目を向けて、いろんなことをやってみたらいいと思うし、いろんなところを受けてみたらいいと思います。その結果、自分のやりたいことが就職活動で見つかってもいいと思うんですよ。自分の可能性を閉じ込めないで欲しいなと思います。

西田
本日はありがとうございました。