キャリアガイダンス MINPO.WORK 民放で働く。
2019.11.15 fri
ガイダンス

2020.02.19 wed

上智大学・音 好宏教授(以下、音)
上智大学新聞学科の音好宏です。今日はよろしくお願いします。
まずは、それぞれのお仕事など、少し自己紹介風にお話しいただければと思います。
始めに福島中央テレビの小野紗由利さんから、よろしくお願いいたします。

福島中央テレビ(FCT)・小野紗由利さん(以下、小野) 
私は、福島県にある日本テレビ系列の福島中央テレビ、報道局報道部に所属するアナウンサーです。
レギュラーの仕事は、夕方の情報番組の平日の中継リポーターと、日曜日にローカルの芸人さんと一緒に情報バラエティー番組のMCを担当しています。その他に、報道部なので通常の記者業務の一環としてデイリー取材、他に特番やドキュメント取材なども行っています。


続いて東海テレビ放送の土方宏史さん。

東海テレビ放送・土方宏史さん(以下、土方)
名古屋にありますフジテレビ系列の東海テレビから来ました土方です。僕は上智大学OB枠で今日は呼んでいただいたと思っていて(笑)、英文学科卒です。と言っても、入社20年になるので、もう全然景色が変わっていてびっくりしました。
仕事としては、今は小野さんと一緒で報道部です。ただ、「報道」なんですが、いわゆる事件・事故のニュースはあまりやっていなくて、皆さん馴染みがないかもしれませんがドキュメンタリーというジャンルの番組をやっています。
ちょうど今は、樹木希林さんがくなってから1年以上たつので、娘の也哉子さんと樹木希林さんがたどった旅を一緒にたどるという特番を作っていて、一昨日まで伊勢神宮にロケに行っていました。それを年末に放送すべく編集をしています。
報道部の前は、10年ぐらい制作部で情報番組やバラエティー番組をやっていたので、ちょうど半分半分ですね。いわゆる現場の話、テレビ番組の話はご紹介できると思います。


最後にテレビ新広島の亀井琢也さん、よろしくお願いします。

テレビ新広島(TSS)・亀井琢也さん(以下、亀井)
テレビ新広島の亀井です。土方さんと同じフジテレビ系列で広島の放送局です。入社以来だいたい営業畑を歩いてきました。テレビの営業というのはスポンサーからお金をいただく、番組をつくる原資を稼いでいく仕事です。
私はその営業の中でも、今までなかったものを立ち上げていく仕事をいろいろやってきました。現在は東京支社の営業部に所属しております。私はビジネスの現場からテレビに携わっているので、お二方とはまたちょっと違った側面のお話をさせていただければと思っております。

今までの仕事の中で一番心に残っている仕事


さて、まずは今まで一番心に残っている仕事をお聞きしようと思いますが、小野さんいかがでしょう。

小野
アナウンサーの仕事をしていると本当に刺激的な仕事がたくさんあるんですが、私は福島県出身で、ずっと福島で暮らしてきまして、大学の4年間だけ東京にいたのですが、福島県を題材にしたドキュメンタリーをつくりたいなと入社からずっと考えていました。
2011年にあった原発事故で避難してきた人たちと避難者を受け入れる人たちの軋轢という結構難しい話題を取り上げて、賠償金を貰っている原発避難者と貰っていない人たちの間のやっかみや、いざこざがあって、なかなか同じ県民同士が仲良くできないという状況が福島県にあるというのを全国ネットで放送しました。約4年取材したんですが、自分が取材したものが一つの形になるという達成感と、このような福島県で起きている問題を全国で放送して、広く知ってもらえるというテレビの力も感じることができて、すごくやりがいのある仕事でした。
ドキュメンタリーと言ったらテレビ界で誰もが知っている土方さんがいらっしゃるので、大先輩の前でお話しするのはすごく心苦しいんですが、それが一番心に残った仕事ですね。


大妻女子大学の桶田教授はTBSで選挙本部長などを歴任された方なんですが、その後テレビユー福島に移って原発のドキュメンタリーなどを作ったりしました。その桶田さんが福島の取材に関する調査結果を学会で報告されていて、東京から全国ネットで流れる福島の姿と、福島の放送局が描く福島の姿が随分違うのではないか、その大量に流れてくる東京からの報道が、福島の人からすると福島を惑わすことになっているのんではないかという問題提起をされました。小野さん、そんなことを感じることはありますか。

小野
今日も私は福島から来ましたが、東京の友達に会っても福島の食べ物は大丈夫なのかと聞かれ、風評被害はまだ残っていると感じます。放送も原発事故にターゲットを絞ってしまうので、福島=原発、福島=自宅に帰れない人がいっぱいいるのではないかという、福島がすごく悪いイメージに映ってしまっているのではないかと、福島に住んで全国ネットの番組を見て感じるときもあります。だからこそ私たち福島県のテレビ局の人間は、福島では普通に暮らしている人もいるという事実や日常を、全国に伝えていかなければという使命を持って取材を続けています。


ありがとうございます。土方さんはいかがでしょう。

土方
テレビ局のいいところをアピールする場にふさわしくないと思って、お話しするかどうか迷ってたんですけれど、「さよならテレビ」という、東海テレビの報道局に1年7カ月ぐらいカメラを入れて、“マスゴミ”ぶりを暴くという、恐ろしい番組をつくらせてもらって昨年放送しました。
これはキー局では絶対作れないんですよね。別に僕がすごいとかじゃなくて、ローカルだからできたと思います。今、テレビはテロップをガンガン入れて、ナレーションであおりまくる、CMをまたぐとかいう手法が多いですよね。そうではなく「テレビ的なもの」ではない作品性を結構高めた映画的なものを放送することができて、すごく記憶に残っています。今も会社の人からすごい嫌われていますので、何で僕がここに呼ばれたのか未だによくわからないんですけれども(笑)。ローカルの良さはすごいあると思っています。


僕の学生が、ある在京テレビキー局の最終面接で、どんな番組がいいと思いますかと聞かれて「さよならテレビ」と……

土方
これは落ちますね(笑)。


君はそんなの作りたいのかと言われて、それはそれでわかっていますという話をしたそうです。つまり“東京の局はあのような番組をすごい嫌がるだろうということは分かっています”というやりとりをしたのを僕に報告してくれて、すごく面白いなと思ったんです。
ローカル局の良さが今日のテーマですが、福島中央テレビと東海テレビとテレビ新広島は明らかに違いますよね。つまり、100社あったら100通りみたいな感じだと思います。そんな中、土方さんは少し変わった親分のもとで常にちょっと挑戦的なドキュメンタリーを作っている。でも、片方でちゃんと日ごろの報道もやっているんですよね。

土方
そうですね、ドキュメンタリーばかりではなく普段のニュースもやっています。そちらでは、先ほど否定したテロップを入れてあおる手法も使いまくっています。
社員で実際に現場に出てディレクターや記者をやれるのは、ローカル局の良さだと思っています。キー局へ入ると会社が大きいので、基本的には管理なんですよね。ちょっと現場を経験程度にやったら、プロデューサーになっちゃうんですよね。岐阜の鵜飼いに例えると、鵜匠という管理側をやらせたほうが会社の経営的にいいから、すぐ上げちゃうんですよ。果たしてそれは楽しいんだろうかというのがキー局に勤めている僕らの仲間の悩みでもあり、実際にものづくりができていないというジレンマがあるみたいです。
それでいうと、入社から20年経った今でもディレクターをやっていて、それが別に社内で土方が出世していないということでもないというか、普通だというのは幸せだなと思います。


ありがとうございます。亀井さんの今まで一番心に残っているお仕事は何でしょう。

亀井
私は稼げるものは何でもやろうという立場、稼がないと番組がつくれませんから。土方さんのやんちゃな番組をつくるためには、お金がかかるということで(笑)、やっぱり営業が頑張るわけです。
例えばテレビ新広島が海の家を出して、そこで焼きそばをずっと焼き続けた時もありました。そんな変わったこともやってきたんですけれども、テレビ新広島は2009年9月からフランスのテレビ局に30分のレギュラー番組を放送しているんです。10年目を迎えて自社の中でも長寿番組になってきた「Japan in Motion」という番組の立ち上げに携わりました。
結構な量の日本の情報をフランスの日本好きの視聴者に発信し続けました。最初は国の助成金が欲しいというのもあったのですが、上手くいかず、でも国のクールジャパン戦略などが後から追いついてくるような感じになって、我々の取り組みが注目され始めました。さらに、例えば桃太郎というジーンズブランドをフランスで紹介して、プロモーションやセールス活動を一緒にやったところ、有名なセレクトショップに取り扱いが決定した事例があって、安倍首相の成長戦略スピーチでクールジャパン戦略を話した際、この番組が取り上げられたこともありました。
あと、きゃりーぱみゅぱみゅさんは日本でブレークする前にフランスで大ブレークしているんですが、フランスでのブレークしたきっかけをつくった番組として、また安倍首相に紹介いただきました。実際、我々のフランスでの番組で最初にレギュラー出演して紹介したことで、ジャパンエキスポという現地のイベントで大ブレークをしたんです。それが日本のいろんなメディア、特にキー局の「めざましテレビ」とか「ZIP!」などがフランスで大ブレークしている模様を紹介することで、きゃりーぱみゅぱみゅさんの世界で通用するアーティストとしてのブランディングが成立したと言われています。地方の放送局でありながら、そんなことにも携われたのは、自分にとっては非常に印象深い仕事だったと思います。


地上放送は放送エリアが限定されていて、例えば広島のテレビ局は広島県で放送サービスをやっています。けれども、番組販売はエリアを飛び越えて売ることができます。言うなれば制度的にマーケットが決められていたのを、その制度を飛び越えて展開したよというお話ですね。

亀井
はい、そうです。我々は免許事業なので、岡山や九州に番組を放送することができないんですよ。ただ、海外に関しては関係ないこと、あわせて海外の人たちが日本の情報を欲しがっていたことで、ちょうどWIN・WINの関係になれたんですね。さらに我々が売り上げに困って何かしようと、やれることは全部やって、いっぱい失敗した中で、残ったのが海外発信だったのです。


民放はゼロサムゲームをやっているんですよね。放送エリア内で視聴率競争をやっていて、視聴率が一番いいところが一番大きなパイをとってしまう。視聴率で勝てないということは、収益も超えられないということなんですが、逆に海外ではいくら稼いでもいいですよという話ですよね。
やってみて、いかがでしたか。ああ大変みたいな……

亀井
めちゃくちゃ大変ですね。安定的にフランスに番組を供給し続けるということが一番大変でした。毎週30分の番組を放送するのですが、下手なものは送り出せません。日本でレギュラー番組を毎週30分放送するだけでも大変なんですが、例えばフランス語の翻訳をしなければならないとか、フランス語のテロップを入れなければならないとかがあります。さらにフランスの放送局のクオリティーチェックを受けなければならない、その結果に応じて修正しなければなりません。かなりタイトな制作スケジュールですが、それが出来る体制をつくったことは非常に大きかったですし、そういう制約がたくさんある中で番組を作ることによって、日本における番組制作でも、非常に難しい課題に対しても前向きに善処するという文化が社内にできたところもプラスの要素だと思います。


ローカル局は海外は遠いと思いがちですが、そんなことはなくて逆に色々なことができたりします。最近は観光とうまく結びつけたインバウンド集客の話も色々ありますが、非常に最先端の仕事をされているなと思います。

学生時代には思いもよらなかったローカルテレビ局の強みや魅力


その上で、地方局だからこそ、こんなことができるんだといった強みや魅力、特に学生時代には思いもよらなかった放送局の魅力は何でしょう。

小野
学生時代は、ローカル局はキー局や準キー局に比べると、やっぱり小さい、人員も少ないし大変といった消極的なイメージがあったんですが、実際に入ってみるとアットホームだし、色々な部署の人たちの顔や名前を全部覚えられるし、つながりも深くチームワークもできるし、仕事しやすいなと思います。出張で日本テレビに行ったりしますが、やっぱり人が多過ぎて、よくこんなたくさんの人たちの中で働いているなと思う時もあります。ローカル局はつながりが強いからこそ、すごく仕事しやすいのではないでしょうか。
あと、アナウンサーというと画面に出て原稿を読むだけかなと思う方が多いんですが、ローカル局だと記者として事故や事件の現場取材に行ったりとか、自分で企画書を出してこういう番組をやりたいと言ったら、じゃあやってみろと言われたりとか、いろんな仕事ができるのはローカル局の魅力かなと感じますね。


学生時代には、アナウンサー職を受けようと決めて目指したんでしょうか。それとも、いろいろと就職活動をしたのでしょうか。

小野
私はアナウンサーだけと決めていたわけではなくて、本当に不動産とか色々と受けた中の一つが放送局でした。ただ、もし放送局に入るなら出身の福島県や東北に行きたいと思って東北の局だけ受けました。それで結構いろんな業種を見て、受かったのがアナウンサーだったという感じです。


どうですか、思ってたのと同じだったとか、こんなに違ったとか。

小野
思っていたよりも色々な仕事があるなと思いました。私はアナウンサーという仕事をすごく調べて試験に臨んだわけではなかったので、入ってから驚きました。本当に三脚は重いんです(笑)。大きな業務用カメラを立てる三脚を担いで取材に行けと言われたら、私たちアナウンサーも行きます。いろんな刺激的な現場で取材できているんだな、いろんな仕事があるんだなというのは感じますね。


土方さんは会社に入って、これは学生時代に思ってもみなかったとかいう話はありますか?

土方
僕も小野さんと一緒で、めちゃくちゃ受けて、商社から銀行からメーカー、百貨店とかを受けました。その当時マスコミはすごい人気だったので、テレビ局に入れたらラッキーと思っていたら受かったという感じで、あんまりイメージがなかったんですね。何か楽しそうじゃないですか(笑)。今でもディレクターをやっていますと言いましたが、社員で入って現場の最前線でものづくりをするのは、同じメディア業界でも他の媒体ではなかなか無いなと思っています。例えば出版とか映画とか広告の世界では、基本的にはクリエーターというのは別にいて、その人たちを仲介するのが仕事なんですよね。社員で実際にクリエイティブをやっている人なんて一握りで、基本的にはアウトソーシングなんですよ。
でもテレビの場合は、ディレクターや記者などを社員でありながらもできる、さっきキー局ではすぐ卒業しちゃいますよと言いましたが、それでもできる。出版社に入って漫画を描けるみたいな感じ、なかなか無いですよね。ものづくりの喜びみたいなものをサラリーマンでありながら感じられるというのは、すごい幸せだなと思います。ローカルのほうがその感覚は大きいというか、さっき小野さんも言いましたけれども、いろんな仕事ができるんですよね。
昔はインフラにお金がすごくかかったので、なかなか機材がなかったりして、ローカルはキー局と比べてやっぱり劣っていたんですが、今はそれこそスマホがあれば発信できちゃうので、ものづくりのやり方は覚えられるし、キー局をうらやましいなと思うことは、そんなになくなってきたのは正直なところです。


NHKは、報道だったらずっと報道、アナウンサーだったらずっとアナウンサーといった感じですが、東海テレビの場合は、営業と報道を入社して早いうちに担当しますよね。例えば報道現場の人も営業を経験していたりとか、逆だったりとか。報道も営業も両方知っていることのメリット・デメリットみたいなのは、土方さんは、どうお考えですか。

土方
すごい平たく言うと、比較的まともな人間でいられますね。世の中の人たちの感覚がわかるというか、例えば、買ってもらうためにお願いをするといった営業系のこともするし、テロップをガンガンつけて煽ったりといった俗なこともするし、一方でアートに近いようなことするし。偏りがないのが良いかどうかわかりませんが、比較的地に足がついているというか、勘違いしないで済むというか、身の丈でいられる人は多いですよね。
キー局の人は、ひがみもあるんですけれども、ちょっと鼻持ちならんやつが多いような。だから、世の中とずれてくるんですよね。それが多分、今テレビがすごい叩かれていることにつながってるんじゃないかと個人的には思っていますが、そういう意味では比較的視聴者の気持ちがよくわかるというか、弱者でいられるというか、自分たちもローカルだという負い目があるので、いいなと思います。


それは非常によくわかりますね。土方さんが大阪の暴力団の事務所にずっと通い詰めて制作した「ヤクザと憲法」というドキュメンタリーを最初に見た時に、土方さんのバランス感覚の良さというか、地に足がついているから作れたんだなと思いました。ちょっと褒め過ぎかもしれませんが(笑)。

土方
これもローカルの良さでしょうか、やっぱり取材していると見られているんですよね、こいつら上から来ているのか、俺たちと同じなのかというのがバレちゃってる。「ヤクザと憲法」の取材を受け入れてくれた理由のひとつに、上からじゃないというか、普通というか、こいつら何かかわいそうという感じがあったからじゃないかなと思うのですが、これがすごい大事だと思うんです。


亀井さんはどうでしょう?

亀井
入社24年目で、学生時代にどう思っていたか大分忘れてしまっているんですけれども、ただ24年前はテレビがすごく活気にあふれていて、そういう会社に入りたいという思いが強かったです。本当にミーハー心ですね。
ただ、特に広島出身なのもあって、広島の放送局に入れたのは非常に良かったと改めて思います。我々の仕事や会社の存在意義は、有益な情報を伝えることを通じて、広島のまちを豊かにしていく、活性化していく、魅力をさらに高めていくことに尽きると思うんです。自分の心と体を育んでくれた故郷に対して、常に仕事を通じて恩返しができているという感覚が持てるんですね。
そういう感覚が持てるとモチベーションがずっと続きます。例えば先ほどの「Japan in Motion」の効果で、広島県はフランス人観光客の来訪数が全国の中でも割と上位です。その人たちが買い物したり、宿泊したり、広島にお金を落としてくれるんですね。我々がもしやっていなかったら、そういったことによる税収が上がらないであろうと思われます。フランス人がお金を落としてくれることによって税収が上がる、税収が上がるとインフラが整備されていき街が豊かになっていくと考えていくと、この仕事は本当に地域のためになるんだとずっと思い続けられるのは、ローカル局の非常に良いところだと思っております。


放送事業が持っている社会性とか公共性を肌で感じるという話でしたが、それは就職活動の時に何か思っていたりしたのでしょうか。

亀井
そこまで考えていなかったような気がしますね。お二人と一緒で色々な業界の会社を受けて、大学が関西なので関西で就職活動をやっていた中で、ふと何か自分が根なし草になるような気持ちになったんです。どこか根差したところで仕事がしたいと考えるとやっぱり故郷かな、帰るんだったらやっぱり広島という街に影響力のある会社に入りたいという、漠然としたものです。


その昔バブルのときは非常に就職が簡単で、頑張ればそれだけお金がもらえる、職が簡単に選べるようなときがありました。その後バブルがはじけて、就活が結構大変という流れの中で、就活生の意識調査を見てみると、自分がやったことが社会貢献につながるかという思いの指標が高まるんですね。それでいうと、放送事業は公共的なサービスで地域立脚型、特に民放局は県域免許ですので、自分がやっていることが地元の社会に具体的に恩恵を返していると感じられているということでしょうか。

亀井
そう思おうというところはあります。この道路は僕がつくったという感覚はなかなか持てないんですが、少なからず広島の人たちに対しては有益なことをやっているという部分が、自分の仕事のモチベーションにもなりますね。


例えば、広島にフランスの観光客の人が来ていると、俺の仕事が還元されているみたいな感じで思ったりしますか。

亀井
これは結構ありますね。テレビ東京系「YOUは何しに日本へ?」を見ていたら、フランス人をインタビューしていて、新宿にある阿波踊りを見せてくれる居酒屋に行きたいと言うんです。何でそんなのを知っているかと聞くと、「Japan in Motion」という番組を見て来たと言うので、我々が取材したものを見て実際に来てくれる。さらに我々の番組のことも「YOUは何しに日本へ?」で全国に紹介していただくみたいに、直接的にそういうことがあると、やりがいを感じますね。他にもテレビ新広島にフランス人の一団が「Japan in Motion」のスタジオを見せてくれと来たりとか、広島の郊外のお好み焼き屋さんにフランス人が番組を見て来たりとか、そういうのがあるとうれしいですよね、やっぱり。


亀井さんとは総務省の会議でご一緒だったんです。日本のコンテンツをどのように広めていくのかという検討をする会議で、亀井さんには先ほどのフランスの話など海外展開の話をしていただきました。地方創生といったような流れもあって、海外展開するんだったらローカル局からみたいな枠組みを作ろうというムーブメントがあって、その最先端を亀井さんがやられていらっしゃるように感じます。
例えば北海道テレビのようにNetflixを活用するなど、動画配信も含めて様々なマーケット展開が可能になってきて、今までのローカル局のイメージとは随分変わってきていると感じていて、やったもん勝ちという状況になってきたのかなと思います。

放送局はブラック???


その一方で、そんなに働いたら生活が大変とか、土日はうちへ帰りたいとか、放送事業者はブラックな会社と思われている節がどうもあって。本当にブラックですか。

土方
古いっちゃ古いですよね(笑)、やっぱり。基本、体育会。時代的に僕らが入社したころは憧れの仕事だったんですよね。だから、基本的に弱肉強食というか競争に勝ったメンバーが上り詰めて入ってくるみたいな。キー局へ入れなかった人たちが屈折しながらローカル局へ入ってくるような構図だったので、こじらせている感じの人は、まだ上のほうには多いですかね。ただ、今その世代は勢いがなくなってきているように思います。自分の反省も込めて言うと、僕らの世代はテレビ局で仕事がしたくて入ってたというよりは、いろんなところを受けたら受かった、ラッキーと入ってきているんです。だから、ものづくりがしたい割合は少なくて、ちょっと格好いい仕事みたいな世代、自分も含めて言いますけど実際モチベーション続かないんです(笑)。
それよりも若い子たちのほうが、選んで入ってきているんですよね。メディアの仕事で何か発信したいと思って入ってきているから、すごく目的意識がある。名声や金が欲しいというよりも何かつくって出したいというピュアな思いを持っている。そういう人たちのほうが受け入れられるようになってきているので、すごい勢いで変わってきている感じはあります。


飲み会がすごい多いとか、そういうのはあるんですか。

土方
今は逆にすごい勢いでなくなりました。時代の流れでしょうかね。所帯が小さいので、いい言い方をするとサークル的な乗りの集まりはあります、ご飯を食べに行ったり。だから、大宴会みたいなものはなくなって、個人的にはすごくいいなというか。


部長が偉くて、1年生が兵隊みたいな感じも、だんだん薄くなってきている?

土方
もう今はないですね。これは多分、テレビに限らず逆にすごく気を使っているところじゃないですかね。働き方に関しては「さよならテレビ」でもやりましたが、ブラックとはまた違う話ですけれども、今まさに悩んでいるところですね。若い子たちのほうが生き生きしているなというのは、すごい思います。


亀井さんはいかがですか。

亀井
パワハラ・セクハラに関しては、もう今は会社が非常に厳しくなっているので、できない状況だとは思います。ただ、成長していくための指導という部分が全くなくなったわけではないので、上司がいろいろ考えながら、若い人に対して一生懸命伝えている。新しい形を模索している感じかなと思います。
自社ではパワハラ・セクハラが行われると本当に懲罰の対象になります。今は、我々にお金を出していただける広告業界などもすごい厳しくなっていて、ブラックとかパワハラ・セクハラに関しては、本当に社会が許さないという風潮になってきています。土方さんがおっしゃったように、我々はケツバット世代と言われまして、本当に殴られる、蹴られるのを歯を食いしばって頑張ってきた20~30代で、急に潮目が変わって殴られ損の世代なんですが、殴り続けてきた人が生きづらい状況になってきていて、本当に淘汰されている感じはあります。


ワーク・ライフバランスみたいなことでいうと、以前のように常に会社中心、それが放送だと格好いいみたいなことを言う人がいましたが、最近そうではなくなってきていますかね。

亀井
営業系は努力したら時短できるんですよね。もう昔とは変わりました。ドキュメンタリーなどの制作系は、どこまででクオリティーを止めるのかとか、それがなかなか難しいと思いますが、きっと本人は、時間は長くなっても、やらされているという感覚はないだろうと思います。
飲み会は、我々の会社は結構ありまして、後輩が行きましょうというケースが多いんです。やっぱりストレスがたまってくるところもあって、そういったものは、私はできるだけつき合うようにしています。だから、飲み会が多いというのが一概に悪いことでもないんじゃないかと思いますし、そういう場面じゃないと聞けない話もいっぱいあるので、皆さんが友達と行くのとあんまり変わらないような状況で、飲みに行くことは多々あります。


小野さんはいかがですか、ブラックかもという説は。

小野
うわっ、ブラックだなと思ったことはないですね。亀井さんもおっしゃっていましたけれど、何かあった時は上司に連絡が入って本当に処罰になります。そのようにはっきりしているので、やる人も少なくなってきたと思います。
私はまだ入社して6年ぐらいなので歴史がわかりませんが、ブラックだな、入社しなきゃよかったと思ったことは一度もないです。


仕事量が猛烈に多くて、という感じではないですか。

小野
うちの会社では2年前ぐらいから急に働き方改革が進みまして、まず1週間以上の長期休みを年に2回必ず取得します。休み希望も優先してくれて、この日は友達の結婚式があるから休みたいと言ったら休めるとか、会社側は私たちの生活に合わせた働き方に改善してくれていると思うことが多いですね。
でも、先日の台風といったような災害の際などは、どうしても報道機関にいると働く時間は増えてしまいます。そこは承知して皆さんもメディア関係を希望されてくるかと思いますが。


「さよならテレビ」をつくった土方さんとしては、このブラックイメージは、どうしたらいいんでしょうね。

土方
世代間のギャップが大きいと思っています。一定数いる「テレビという仕事を金とか名声を得るための道具」として考えている世代が今すごい勢いで生きづらくなってきていて、本当にものづくりをする人たちが優遇されてきています。前は送出するための手間がすごく大変だったので、管理する人たちの力が強くて、実際のクリエーター、ものづくりの現場の人たちの立場が弱かったんですよね。管理する人たちに頭を下げて番組をつくらせてもらっているという感じはありました。例えば、モニターがいっぱいあってドラマとかに出てくるサブと言われる副調整室、ああいう部屋は極論すれば要らない、何億もかけてつくる中継車も要らなくて、どんどん簡単に放送ができるとなってくると、今度はコンテンツが必要だとなってきて、つくる人がいないという話になって現場が優遇されてきて、パワーバランスが変わってきているのはすごくいいことだなと思います。


お勉強風なことを申し上げると、多分、民放はマクロ経済連動型で日本の経済がいいときは調子が良くて、経済が悪くなると、どんなにいい番組をつくっても視聴率がよくても、収益が下がるところがあると思うんです。
そうすると、お二方がやっている仕事は、民放はマクロ経済連動型だとは言いながら、収益の入り口をいろんな形に増やしていこう、いろいろ増やせば増やすほどマクロ経済一辺倒ではない形になるという体質改善ですよね。
海外で売るとか、映画にするとか、マーケットのモノトーンの処理の仕方じゃない形にするのが、3K職場といったような問題の解消というのにつながるのかなという話をお聞きしました。

ローカル局は「山の奥にある美味しいラーメン屋」?
3人の思う今後の民放業界、ローカルテレビ局


一方、ローカル民放局はこの後すごく経営が厳しくなるという説が流れていますけれども、この後の民放業界をどう思っていらっしゃいますか。これは難しい質問ですよね。

土方
感覚的な話でいいですか?何となくローカル民放のイメージは「山の奥にある美味しいラーメン屋」みたいな、そういう生き延び方になっていくのかなという気がしています。どっちかなんですよね、牛丼チェーンみたいに、とにかく安く、効率重視で、人件費を下げるというふうにしてやるか、山の中でやるか、どっちか分かれていく気がするんです。それだとローカルの良さが活きて、いわゆるマーケティングやビジネスの手法にからめ捕られずに済むんじゃないかとすごく感じています。やっぱり東京で大きい会社だと、基本的には計算というかマーケティングの世界で、大体これぐらい投資してこれぐらいの利益が出るからと、逆算的に全ての物事が行われていくというイメージがあります。つまり、お金にならなかったらリスクを回避するために出発もできないという、資本主義のなれの果てみたいな感じになってきているなと。
だから、ゼロサムゲームと先生がおっしゃいましたけれども、極論すると資本があるところが全部持っていっちゃう状況の中で、ローカルはすごく不利なように見えますが、そのルールに必ずしも乗らなくていいんじゃないかと個人的には思っていて、山の中に探していかないと行けないような、1日10杯ぐらいしか作れないけど、めちゃくちゃおいしいラーメン屋はあるじゃないですか。そこには牛丼チェーン的なやり方ではやれない、家内制手工業みたいにしか作れないものがあって、ただ今は口コミの時代だから探して行けるんですよね。
メディアの話に戻すと、おもしろいものを作れば見てもらえる手段は今すごく増えてきていて、ネットフリックスの例も挙がりましたが、東海テレビでいえばドキュメンタリーをテレビで放送するだけでは限界があって、例えば映画館でやるとか、日本映画専門チャンネルという衛星放送で流すとか、ニッチでもファンがつけば食っていけるという世界になってきました。僕ら世代が求めていた金や名誉みたいな世界でいえば、給料は下がるかもしれませんが、やりがいを本当に求めるなら、僕はローカルのほうがいいなと思います。
実際に、ものづくりはやりたければできるし、学んだことは例えばユーチューバーをやるとなったら応用できると思う。組織がでかいと管理に回されてしまう、会社の看板があるうちはいいですけれども、会社の看板を取ったら食っていけないというか、メディア業界にいる以上は実際につくる方法を覚えたほうが、会社を辞めるにしてもすごく生きてくるなと思います。就社するという感覚じゃ皆さんはないと思うので、手に職をつけるというか実際に何かものづくりをする手段を覚えるなら、ローカルのほうが圧倒的に恵まれているなと思います。


小野さんは、いかがですか。

小野
私は6年以上放送局にいて、この先テレビは廃れていくんだろうみたいな恐怖感に駆られたことはないですね。廃れないために何をやるのかをテレビ局の中では今いっぱい考えていて、例えばテレビ局でもネットを活用して頑張っていこうと、新しくネットを強化する部署が去年できました。アプリを作ったり色々な試みをして、この先もテレビがみんなの生活の一部としてやっていく取り組みを行っています。今すごく一生懸命頑張って勢いのある時期なのかなと思います。
うちのアプリでいうと、ローカル局ならではですが、ローカルの商店街と放送局のアプリが連携して、割引券とかをアプリに配信して、お店へ行くと割引になったりとか、本当に地道な努力ですが、いろんなことを試みて、これからも廃れないんじゃないかなという気持ちでいます。


亀井さん、いかがでしょうか。

亀井
企業として安定というのはまずないだろうなと。もうバラ色の未来を約束できる企業なんてどこにもないでしょうから、民放もご多分に漏れずというふうに思います。
うちの会社でいうと45年、民放でいうと70年、歴史の中で大きくイノベーションをしてこなかったというのが事実としてあると思うんですね。営業的な収入は、そこまで実は下がっていないんですが、一番全盛期のバブルのころと比較すると、やっぱり多少下がっています。今は、ちょっと下がってきているけど利益はちゃんと出していますよという状況なので、経営的には危機的な状況ではないんです。
ただ、そのままにしていたら必ず淘汰されるだろう、選ばれないメディアになっていくだろうという面で、まさに今、内部留保がある程度ある、利益を確保できているという状況で、そのお金をどう新しいビジネスに結びつけていくか、収益構造の多様化を図れるかが、求められていると思います。
テレビ広告がどんどんデジタル広告にとられている事実はあるんですが、それなら我々がデジタルトランスフォーメーションをすればいいというだけの話なんですよね。それを今まで本気でやってこなかったのがテレビ局の反省です。そういったことを一個一個、まだ課題も多いんですが、伸びしろが十分にある今がまさに変革のときなのかなという。
そういう変革の時に、我々アナログ世代はデジタルに関してスピード感に欠ける瞬間もあるので、本当に皆さんのような子供のころからデジタルに親しんでいるような人たちが、どんどん民放に入ってきてデジタルのリテラシーを入れてもらえると、もっともっと楽しい会社になるのかなと思っています。

[参加者からの質問]海外から求められる日本の情報


ありがとうございます。もっとお聞きしたいことはあるんですけれども、ここからは、お越しの学生の皆さんから質問を受けて展開しようかなと思います。

質問者1
亀井さんに質問です。自分のつくった番組でフランス人の方がお店にいっぱい来たという効果を実際に感じられたというお話がありましたが、具体的に海外の方々が欲しがっていた情報というのはどのようなものだったのでしょうか。

亀井
フランスの放送局からずっと言われていたのは、フランス人が恐らく好きであろうということを想定した内容にしないで、日本で流行しているものを紹介してくれということでした。我々が放送してもらった局は日本に支局を持つ余裕がなかったのですが、人気があるので、日本の最新情報を知りたいんですよね。だんだん情報が古くなってネットに上がっていき、誰でも調べられる情報になっていくスパイラルがあるのですが、テレビは本当に新鮮な情報を流してくれる、今こんなものがはやっているいうのを伝えられるというのが一番強かったと思います。
もちろん災害情報など、例えば日本に来たときは必要だと思うのですが、我々に求められていたものは、本当におもしろいエンターテインメントだったり、今、本当に流行っているグルメだったりとか、実際に日本に行きたくなる情報が欲しい、ガイドブックに載っていない情報を求められたと思います。

[参加者からの質問]Uターン就職のきっかけ

質問者2
地元のテレビ局だけではなく、いろんな業界を就職活動で受けられていたというお話がありましたが、民放の東京のキー局も受けましたか?あと、東京の企業も受けていたとしたら、どうしてUターン就職しようと思ったのかをお聞きしたいです。

亀井
私はキー局を受けておりません。関西の大学だったので、関西の大きな有名な企業をたくさん受けました。東京までは就職活動に来なかったですね、結局。最終的に広島の放送局にご縁があったという流れです。

土方
僕は上智だったので東京は受けまくりました、節操もなく。商社とか金融とか。メーカー教育関係と百貨店という全く節操のないところから内定をもらいました。名古屋は中日新聞という大きなブロック紙と東海テレビ、キー局は全部もちろん受けて、気持ちいいぐらい滑りました。基本的に僕らの世代は、全部キー局から落ちてきて地方を行脚するというパターンが多いんじゃないですかね。

小野
私もキー局はアナウンサーで受けて、並行して色々な東京の企業も受けました。何で私が地元に帰って就職したかというと、ちょうど就職活動する時期に東日本談震災があって、それでテレビで自分の故郷がぼろぼろになっていく姿を見て、すごい心が痛んで、私はその時に故郷がこんなに好きだったんだというのを実感して、ならば地元に戻って就職しようと思いました。何か一つでも地元のためになるような仕事につきたいなと思い、東京の企業とも悩んだんですけれども、最終的には地元に帰ってアナウンサーという仕事を選びました。

[参加者からの質問]人材育成の方向性

質問者3
地方局、ローカル局というと、例えばアナウンサーの方が記者をやったり、どんな職で入っても例えば一回は営業をやったりとかいうのがあるかと感じています。それぞれの会社のことで結構ですので、どういうふうな社員育成の方針があるのか伺いたいです。

亀井
ローカル局というのはジョブローテーションが結構あって、いろんな部署に行きます。私は営業系が多いんですが、プロダクションに出向したり、人事もやったことがあります。ただ、これが個性の均一化につながるわけでもなくて、やっぱり、どこかに本籍的な部署があったりします。私でいうと結果的に営業だったようです。いろんな部署を経験して個性が顕在化してくるんですよね。結果、そういうキャリアを歩んでいくので、決して中途半端な人間になっていくわけではありません。人数が少ないので、部署の垣根ができてしまうと会社の機能不全が発生してしまうので、ある程度の異動をしておかないと、会社がうまく回らないのではないかと思っています。
あと、教育という意味でいくと、ローカル局は人数が少ない、サッカーでいうと部員が11人しかいないサッカー部みたいなもんなんです。けんかしたり、先輩が後輩をいじめたりしてケガしたりすると、10人でサッカーをしなきゃいけないんですが、そんなことは絶対にできないわけです。だから、個性を生かして後輩をしっかり育成していくということをやらないと、自分に跳ね返ってくるというところがあって、教育という部分では人間を尊重しているということがあるかなと思います。

土方
教育でいうと、良いか悪いかはさておきマニュアル的なものは少ないでしょうね。さっき例えた山の奥のラーメン屋なので、基本的には家内制手工業というか少ない人数で顔の見えるところでやっているので、これも良いか悪いかですけれども、職人の徒弟制度的なところはあります。要するに、誰か先輩について仕事を見て覚えるみたいな、ちょっと一昔前の感じですけれど。何となく最先端のイメージだと、全てマニュアル化されていて誰もが同じ仕事ができるというのが今どきなのかなと思いつつ、個人的には、その距離感の近さというか、先輩を見て憧れるところは盗みつつ、嫌なところはやらないというやり方は、すごく自分にはよかったなと思っています。誰につくか、どの部に入るかで違うとは思いますが、マニュアル化されていたらもっと寂しかっただろうなというか、孤独がないんですよね。
煩わしさはあります、距離が近いから。うっとうしいなというのはありますよ。でも、寂しくはないというか、大きな組織で自分は本当にここに必要があるんだろうかとか、自分が抜けても代わりがいるということよりは、自分が風邪を引いたら番組はどうなるんだろうみたいな、自分のいる意味というんですかね、それはすごくあると思います。

小野
基本アナウンサーに採用された時点で、ずっとアナウンサーではあるのですが、報道部の中にいますし、人数も少ない分、記者が足りない場合にはアナウンサーで補います。最初からそういう教育は受けていて、私は色々なことができて良かったと思えるタイプだったので、そういうのもよかったです。
アナウンサーも例えば40歳以降になって営業に行ったりとか、ローカル局は特に多いのかもしれないですが、編成に行ったり色々な部署を経験する場合もあります。アナウンサーだったからこそ、顔が親しまれているから営業で売り上げがすごく伸びたという話もありまして、一昨年までアナウンサーだった男性が支社の営業部長になったのですが、その人が行った途端から売り上げが2倍以上に伸びたというケースもあって、経験を生かして違う部署で頑張る人が多いかなと思います。

[参加者からの質問]なぜメディアはたたかれる?

質問者4
自分は4年生で来春に広島のある局にUターン就職する予定です。自分は昔からテレビとかラジオが好きで、好きという思いが強いから自分では気づかないんですけれども、世間では必要以上に叩かれているなという印象があります。なぜここまでメディアが叩かれるようになったのか、皆さんの考えとかがあればお聞きしたいです。

土方
「さよならテレビ」で1年7カ月、自分の局を撮っていて、それまでの仕事でも感じていたのは、おまえら、好きでやっていないだろうというのがバレちゃっているのはありますよね。記者だったら伝えたい、番組制作だったらおもしろいものをつくりたいとかというのがあるべきなんですが、お客さんのほうを見ていない、内側を見ているというかビジネスにからめ捕られちゃっていて、視聴率をとらなきゃいけない、金を稼げなきゃいけないというところに気が行っている。一番はやっぱり視聴率なんですよね。
それが「さよならテレビ」のひとつのテーマなので、ぜひ映画版も見ていただきたいんですが、視聴率をとるためだったら何でもするとなってしまっていて、自分たちが好きなものをつくっているわけでもなければ、CM前にあおったり、テロップをガンガン入れたりとか。極論すればお客さんを騙しながら見させるための工夫に視聴者は何か嫌気が差しているというか、おまえたちは何がやりたいの、本当にやりたくてやっているの?というところが嫌われているように思います。だから、その逆がユーチューバーだなと思うんですけれども、彼らがつくるものは、僕らプロから見ると粗いんですよね。でも圧倒的に勝てないなと思うのは、自分たちが楽しんでやっている。今そこが求められているんでしょうね。
楽し気にやっているというところを見ているといえば、「さよならテレビ」や「ヤクザと憲法」というドキュメンタリーを撮影したんですが、それはビジネスとしてやっているんじゃなくて心から楽しくてやっている仕事なんですよね。だから業務というよりは、どっちかというと遊びに近い感覚というか、ちょっとアートという言い方もしますが、だから、好きでやっていて良かったら見てくださいみたいな感覚があります。そういう感覚が今のテレビに足りなくて、見させるための工夫をすれすれのところでやるみたいな、そういうのが嫌われているかと思います。

[参加者からの質問]ドキュメンタリー制作で心掛けるところ

質問者5
土方さんにお聞きしたいんですが、ドキュメンタリーを制作する際、自分なりに気を使うところや心がけがあったら教えてください。

土方
あんまりテレビ的な手法にとらわれ過ぎないというか、我々は、マシンのようにテロップを入れるとか、あおるナレーションとか視聴率をとるための型を、徒弟制度により身にしみ込んでいるんですね。だから、それをなるべく忘れて、自分たちがやりたいことは何だろう、楽しめるものは何だろう、本当にやりたいことは何だろうというものを探すのを一番大事にしています。テーマ選びもそうですが、これをやったら受けるだろう、見てくれるだろうというマーケティングの手法で経済的に売れるものを探すのではなく、自分がアーティストという言い方はおこがましいですが、つくり手としてやりたいものは何だろうと探すことをテレビ人間は実はあまりしてないんですね。ふだんの仕事で、視聴率をとるために業務としてやっている作業が多いものだから。だから、その発想の転換は大変だったんですが、それをやれたのはとても楽しかったですし、それができる環境がローカルにはあると思っているので、未来はあるのかなと思います。
東海テレビにはドキュメンタリーをつくりたいといって入ってくる子が結構いて、僕らの世代よりも思いが強いから、すごい頑張っています。若い子たちのほうが純粋なモチベーションで仕事ができるからすごい。そこはリスペクトしています。頑張ってください。

[最後に]ローカル局の使命や価値とは?


最後に、ローカル局の使命や価値は何かということを踏まえ、皆さんが今後こういうことをやっていきたいというような話を中心に、最後にまとめの言葉をお願いしたいと思います。それでは小野さんから。

小野
ローカルに住んでいるからこそわかる視点はたくさんあって、本当に身近なところで困っている人とか、助けてほしい人にすぐ気づけるとか、距離も近いので深く取材もできるのが利点かなと思います。
これからは、やっぱりローカル局にいるからこそ福島県がより良くなるためにはどうすればいいのかを、ずっと深く考えていけたらというのが私の目標かなと思っています。


ありがとうございます。続いて土方さん。

土方
僕も一緒ですね。亀井さんも挙げていましたけれども、実は喜ばれている実感をテレビ局はなかなか得がたくて、テレビ局以外のメディア全般が多分そうなんでしょうけれども、お客さんとの接点が基本的にないですよね。それがやっぱり視聴率とか購読数というデータに置きかえられていくのが、すごい危ないなと思っています。もちろん東海テレビでもありますけれども、視聴率をとることがファンが多いことにどうしてもなっちゃうんですが、実は必ずしもそうではなくて、そこで勘違いせずに済むというのがローカル局のすごくいいところです。要するに数字をとっていればいいというのではない分、実際に地元の人たちが喜んでいるところ、例えば取材が終わってから会いに行って、お客さんが来てくれたよというフェース・ツー・フェースの喜びというか、例えば医療の現場の人が病気の人を救った喜びに近いような、実体験としての肌感覚でのやりがいがすごいあるなと思います。


亀井さん、いかがですか。

亀井
私はビジネス面というか会社経営という観点で申し上げると、カープ女子というのがすごく注目されました。今年ワールドカップラグビー日本戦が東京エリアので視聴率を40%ぐらいとったと話題になりました、すごい熱量でしたよねと。
あれ、広島で広島カープの試合を放送していたら、本当に40%とかに近い視聴率をずっと稼ぐんです。毎日、日本代表のラグビーがワールドカップの試合をしているかのように、広島ではカープが野球をやっているという、すごい磁場になっています。
何でそうなったかというと、もともとカープというのはすごく人気球団でしたけど、カープ女子というものに東京の人たちが目をつけたんですよね。東京のメディアがカープ女子という人がいるよと全国に発信してくれたんですよ。それで“隠れカープ女子”がどんどん顕在化して、すごいうねりになっていった。広島から全国にたくさんの人が出ていて、隠れキリシタンのようにカープを応援していた女の子たちが、いっぱいいたわけですよ。その人たちが顕在化して神宮球場を真っ赤に染めるという状況なんですけれども、これは東京が承認してくれたから、東京がおもしろがってくれたからというのがあるんですよね。
地方でちょっとおもしろいことをやると、東京がおもしろがってくれるという時代になったのかなと思うんです。東京の大都会で買い物をしましたということをSNSで上げるよりも、こういう田舎に行ってこんなものを食べましたというほうが、「いいね」が多いんじゃないかということだったり、東京の人たちも自分たちでわざわざ取りにいかなきゃいけない地方の情報を、どんどん探し始めている時代でしょうか。
それであれば、広島という街で面白いことをやって、東京の人に承認してもらって、そこからドカンと広げていき、ビジネスをそこに仕掛けていく。人モノお金を集めていくということが、これからのローカル局のあり方かなと思っています。私は東京支社なので、そういう回転をするエンジンになっていきたいと思いますし、そうやって地方が魅力的になっていって、ボトムアップで日本という国が豊かになっていく。ちょっと話が大き過ぎましたかね。
パラダイムシフトが地方から起こるという、明治維新でも薩長が日本を変えた、それぐらいのことをやろうという気持ちでやっていって、1割2割が実現したら幸せかなと思っています。


ありがとうございます。ちょうど時間になりました。 放送は一度にたくさんのところにメッセージを送るので、均質化を目指すことになっちゃうと思うんですが、ある種対比する形で、それぞれの県に放送サービスがある意味は多様性の担保なんだと思うんです。だから、日本の放送サービスの多様性の担保は県を単位とした放送サービスが元気になることだろうなと思うんです。
土方さんと私は明日から大阪で「『地方の時代』映像祭」という映像フェスティバルに行くことになっています。これを推進したのは村木良彦さんという方で、元TBSの方で50年前にテレビマンユニオンという会社をつくった人です。村木さんが3つのことをやりたいと。1つは若者の育成。例えば1期生は映画監督の是枝裕和さんだったりするんです。もう一つは制作会社を守るため、制作会社の団体「全日本テレビ製作社連盟(ATP)」をつくりました。3番目は、日本のテレビを考えたときに多様性やダイバーシティを考えていくと、ローカルにそういう人がたくさんいる、日本は地方に侍がいるからテレビはよくなると「『地方の時代』映像祭」を盛り立てることをやりました。言うなれば、多様性は可能性だということを非常に主張されたわけですが、まさに3人のお話は、可能性の兆しを改めて確認をさせていただいたのかなというふうに思いました。 本当はもっと時間があればと思いましたけれども、きょうはここまでにさせていただきます。ありがとうございました。